革靴の鏡面仕上げ。
美しく鏡のように仕上げられた革靴の鏡面の美しさは見とれてしまうほどです。
僕は基本的に、フォーマル靴の場合は鏡面に仕上げて履いています。
一般的なビジネスの場であれば、鏡面に仕上げていようが、その場に似つかわしくないということはそうそうありません。
しかし、TPO(時・場所・場合)次第では状況が変わってくることも。
法事の場もその1つ。
喪服での出席になりますが、故人を偲ぶ場において、煌びやかで華やかな印象を与える革靴の鏡面仕上げはふさわしくありません。
今回、親族の法事に出席するにあたり、革靴の鏡面を落としました。
本記事では革靴に仕上げた鏡面の落とし方と使用した道具について紹介します。
鏡面仕上げにふさわしくない場とは?
革靴の鏡面仕上げは靴磨きの醍醐味と言っても過言ではないでしょう。
シューポリッシュで革靴をピカピカにすることが趣味という人も多くいます。
かくいう僕もその一人。
鏡面仕上げの楽しさから、ついつい持っている靴を片っ端から磨いてしまうのは靴磨き好きの性。
しかし、すべての革靴を鏡面にすると困ることがあります。
そんな状況に陥りました。
突然ですがこちらの靴。
黒のストレートチップなので、冠婚葬祭すべてに対応可能な万能選手。
…のはずなのですが。
ガッツリ鏡面仕上げ済み。
これでは法事には出られません。
なぜかと言いますと…。
法事は故人を偲び、親族の絆をより深めるためのものです。
厳かな場であるので、服装は冠婚葬祭用のブラックスーツが基本。
当然、靴もそれに対応するものである必要が。
つまりは黒色で装飾の少ない革靴を着用することになります。
光沢感のあるガラスレザーやエナメル素材の靴、あるいは穴飾りや装飾がある靴は避けるのが無難です。
そういった靴は華やかな印象を持っているので、法事の場にはふさわしくありません。
光沢感があって、華やか…。
法事の場に鏡面に仕上げた革靴を履いて出席するのは避けるべきです。
そのため、法事に出席するにあたり、鏡面に仕上げた靴のワックス層を除去する必要が出てきました。
そこで、今回は鏡面を形成するワックス層の除去方法について、実践を踏まえて説明していきます。
革靴の鏡面仕上げを落とす方法
鏡面の落とし方にはどのようなものがあるのでしょうか?
色々な手法がありますが、主に以下の方法があります。
- 靴クリーナーで落とす
- 油性の靴クリームで落とす
- 専用クリーナーで落とす
それぞれの手法を詳しく見ていきましょう。
靴クリーナーで落とす
革靴の鏡面を落とす方法の1つ目は靴クリーナーを使用することです。
僕が普段の靴磨きでヘビロテしている靴クリーナーは、M.モゥブレィのステインリムーバーやブートブラックシルバーラインのツーフェイスローションがあります。
しかし、これらでは十分に鏡面を落とし切れない場合があります。
というのも、鏡面のように輝いている部分の正体はシューポリッシュのロウ分、つまりワックスです。
このワックスが革靴の表面に強固な油の層を形成して、美しい光沢があらわれています。
形成されているワックス層は比較的頑丈であり、上にあげたような一般的な靴クリーナーではワックス層を完全に除去することが難しいのです。
不可能ではありませんが、相当の時間が掛かります。
なにより、クリーナーの使用量もかさむので、とても効率的とは言えません。
サフィールのレノマットリムーバーであれば、その強力な洗浄効果によって鏡面を構成するワックス層をバッチリ除去できます。
ですが、レノマットリムーバーはその強力な洗浄力ゆえに、使用量を間違えてしまうと革を痛める原因に。
どのくらい強力かというと一発でカビを根絶できるくらいです。
そのため、靴磨きを始めたばかりの人には少し扱いづらいかもしれません。
油性の靴クリームで落とす
油性の靴クリームで落とす手立てもあります。
鏡面を形成しているワックス層は油の膜です。
ということは、そのワックス層は油に溶けます。
油は油を溶かしますからね。
その原理で油性の靴クリームであれば、ワックスの層を除去することができます。
以前、油性クリームのクレム1925で実際に革靴の鏡面層を除去したことがあります。
専用クリーナーで落とす
鏡面落とし専用のクリーナーもあります。
それがブートブラックのハイシャインクリーナーです。
ハイシャインクリーナーは鏡面に仕上げたワックスの層を除去するための専用クリーナー。
その効果は絶大です。
鏡面仕上げ除去のための専用クリーナーというだけあって、簡単にワックスを除去できます。
ただ、あくまでレノマットリムーバーと比較してです。
- 鏡面仕上げ以外のところには使用しないでください
という注意書きがあるので、革への負荷があるにはあるようです。
以上、鏡面落とし手法を紹介しました。
どの方法でも鏡面除去は可能なので、好みの方法を選んでみてください。
実践!鏡面落とし方法
では、実際に革靴の鏡面を落とす作業に入ります。
先ほど紹介した方法の中で、今回採用するのは、
- 専用クリーナーでの鏡面落とし
です。
なんだかんだで最も速く鏡面を落とせる方法です。
ということで、こちらのハイシャインクリーナーで鏡面落としを実施します。
作業工程はこのように。
- ホコリ落とし
- 鏡面落とし
- クリーナーの除去
では、早速やっていきます。
ホコリ落とし
まずは馬毛ブラシで靴に付着しているホコリを払います。
ブラッシングは革靴のお手入れの最も基本的なことであり、最も重要なことでもあります。
鏡面落とし
次に、先ほど紹介したハイシャインクリーナーで革靴のワックス層を除去します。
指先にハイシャインクリーナーを取りまして…
鏡面に仕上げた部分にのみ塗布します。
感触としては、かな~り柔らかいワックスのよう。
塗りやすさ抜群です。
片方の靴が終わったら、もう片方の靴にも。
クリーナー容器に記載されている使い方としては、クリーナーをクロスに取って溶かしながらワックスをふき取っていくというもの。
しかし、今回は靴にワックスを厚塗りしているということもあり、まずはワックスを浮かせる目的で指で直接クリーナーを塗っています。
この方がワックスの落ちが良い気がします。
一通りワックスを塗ったら、指に巻き付けたクロスにクリーナーを取り、鏡面部分のワックスをふき取っていきます。
ハイシャインクリーナーは溶剤ですから、クロスを強くこすると革への負担が大きいです。
ゴシゴシこすらずに、クルクルと円を描くように優しく拭きます。
クロスは真っ黒です。
優しく拭いてもこれだけごっそりとワックスが除去できます。
ですが、強力なワックス落とし効果のあるハイシャインクリーナーとはいえ、ワックスが厚塗りされていると1回で落としきれない場合があります。
その場合はハイシャインクリーナーでのワックス拭き取り作業を複数回実施することに。
クロスを新しい面にして…
再度、ハイシャインクリーナーをクロスにつけてフキフキ。
優しく拭くという意識を忘れずに。
焦らずじっくりいきましょう。
まだまだ落ちますね。
もう1回。
ワックスの落ちが無くなってくると、クロスにワックスの色が付かなくなってきます。
このような状態になったら、ワックス落としは完了です。
今回は黒のシューポリッシュを使っていたのでクロスに色が付いて判断しやすかったのですが、無色のシューポリッシュを使用している場合はクロスに色が付きません。
その場合は革靴の光沢が無くなり、革がマットな質感になったことを確認できた地点で鏡面落とし終了と判断しましょう。
ハイシャインクリーナーを靴の上から除去
鏡面仕上げのワックス層の除去を終えると、靴表面に残ったハイシャインクリーナーが気になります。
そこで、表面に残ったハイシャインクリーナーを普段のお手入れ用の靴クリーナーで拭き取ります。
使用するのはブートブラックシルバーラインのツーフェイスローション。
靴用の汚れ落とし用クリーナーです。
ツーフェイスローションをクロスに取って、ハイシャインクリーナーを使用した部分をクロスで拭きます。
フキフキ。
これにて鏡面に仕上げた面の除去はおしまいです。
靴の様子はと言いますと…
鏡面が落ちていますね。
こちらがトゥ部分の拡大図。
マットな質感、全開です。
きれいさっぱり鏡面仕上げが無くなりました。
これで憂いなく法事に出席できます。
ただ、ほんの少し光沢が欲しい…
めでたし、めでたしですね!
…。
…う、…。
…うぅ、…。
…う…、うぅ…。
…あ、頭が痛い…。
靴を輝かせたくて頭が痛い(白目)。
いや、ホントどうしたら良いですか。
この気持ち。
革靴がマットな質感を手に入れたは良いですが、ツヤが欲しいです。
鏡面に仕上げることはもちろんダメですが、ツヤがあるくらいは…。
ツヤくらい…。
ツヤくらい良いよね(白目)。
ということで、鏡面を落とした充実感冷めやらぬ内ですが、靴磨きを行おうと思います。
華やかな足元がふさわしくなくても、革の質感を高めてあげる位なら良いはずです(自らに言い聞かせるように)。
折角鏡面を落として革への栄養補給を妨げるワックス層を除去したことですし。
革の栄養補給をした後に、少し磨きます。
作業手順は以下です。
- 栄養クリームを塗る
- 油性クリームを塗って磨く
- 仕上げ用ブラシでブラッシング
今回のメイン作業はあくまで鏡面落としなので、ここからはチャチャっとやっていきますよ。
それでは早速、靴磨き開始です。
栄養クリームを塗る
まずは靴クリームを塗ります。
通常はホコリ落としのためのブラッシングからですが、今回は冒頭でホコリ落としや汚れ落としをすでにしているため、いきなりクリームからです。
今回使用するのはこちらのサフィールノワールのレノベイタークリームです。
このクリームはカーフやボックスなど、光沢のある皮革に栄養と柔軟性を与え、自然で美しい光沢を引き出すことができます。
カーフやボックスというとデリケートな部類の革です。
つまり、このレノベイタークリームはデリケートクリームという位置づけ。
サフィールノワールって他にもデリケートクリームあるよね?
同じデリケートレザー用のクリームと言っても、この2つのクリームには仕上がりに違いがあります。
レノベイタークリームは革に光沢を与え、スペシャルナッパデリケートクリームは革の質感を活かすためにツヤを出さずに仕上げることができるのです。
- レノベイター…ツヤ有り
- スペシャルナッパ…ツヤ無し
クリームを使用する革の種類によって使い分けることが可能なんですね。
今回はカーフレザーの靴で光沢を出したいということもあり、レノベイタークリームを選択しました。
レノベイタークリームをクリーム塗布用ブラシであるペネトレイトブラシに取って、靴に塗り込みます。
トゥ部分はこれまでワックス層が乗っていたので、その部分はどうしても革への栄養補給が滞りがちになります。
しっかりクリームで栄養と潤いを与えましょう。
靴全体へのレノベイタークリームの塗布が終わったら、豚毛ブラシでのブラッシングです。
ブラッシングで塗布したクリームを靴全体になじませます。
ブラッシングの後はクロスで余分なクリームを拭き取ります。
余分なクリームはベタつきの原因となります。
放っておくとホコリを吸着してしまいますから、余分なクリームはしっかりと落としておきましょう。
レノベイタークリームでケアした後の革靴の様子です。
控えめなツヤが美しいですね。
ここでお手入れ終了としても良いのですが…。
油性クリームを塗って磨く
靴磨きって一度始めると止まらないですよね?
ということで、次は靴を磨きます。
折角鏡面を落としたので、ツヤはあくまで控えめに。
そんな目標を立てつつ、使用するのはこちら。
アーティストパレットは油性の靴クリームなので、比較的ツヤ出し効果が強いクリーム。
このクリームを指に取り…
靴に塗ります。
指で直接塗り込むことで体温の熱を利用できるため、クリームのすべりが良くなります。
ですが、細かいところは指よりもペネトレイトブラシのようなクリーム塗布用ブラシを使った方がやりやすいです。
塗る場所によって使い分けると良いでしょう。
アーティストパレットの靴クリームをアッパー(甲革)全体に塗ったら、水研ぎ工程に移ります。
ハンドラップでクロスに少量の水を含ませて…
磨いていきます。
優しくクルクルと円を描くようにクロスをすべらせます。
最初は革が曇ったような見た目になるかもしれませんが、磨き続けていくと徐々に光沢が出始めます。
靴クリームを塗った個所全体を磨き上げます。
アーティストパレットで磨いた後はこんな感じ。
ツヤが出てますね。
この時点で、
という心配もありますが、靴磨きラバーとして仕上げ工程もしなければ気がすみません。
ということで、次、最後の工程に移ります。
仕上げ用ブラシでブラッシング
最後はブラシで仕上げます。
仕上げ用の、山羊毛と馬毛がミックスされたブラシです。
このブラシにハンドラップで水を含ませます。
そして、ブラッシング。
ブラシの柔らかで密に埋め込まれた毛がクリームを均一にならしてくれるため、より一層、革のみずみずしさとツヤの美しさが引き立ちます。
そして、磨き後のお手入れ完了図がこちらになります。
…。
心の声:(結構輝いちゃってるかなぁ…。)
心の声:(これで法事行けるかなぁ…。)
鏡面落とし前後で比較してみる
では今回のお手入れを通して、ケア前後の比較をします。
ハイシャインクリーナー前後
まずはハイシャインクリーナーの使用前後での比較です。
鏡面落とし前後の比較図ということになります。
上がハイシャインクリーナー使用前、下がハイシャインクリーナー使用後。
一目瞭然の違いです。
ハイシャインクリーナーを使うことで、しっかりとワックスの層を除去できていることがあらためて確認できました。
【ハイシャインクリーナー ⇒ 靴磨き】前後
続いて、鏡面落とし前と今回の一連のお手入れ(鏡面落としと靴磨き)後の比較図です。
上がお手入れ前、下がお手入れ後。
こうしてみると靴磨きでツヤがでたものの、鏡面磨きの光沢感ほどではないことがわかります。
お手入れ後では靴の存在感の放ち方がだいぶ緩和されているのではないかと感じますね。
これならば、鏡面仕上げという人工的な印象とは一線を画し、
- 革靴の質感を引き出す
というレベルで収まっているのではないかと。
これで法事に行けます。
TPOに合わせて鏡面を落とし革靴を楽しもう
本記事では革靴の鏡面仕上げの落とし方について紹介しました。
勢いあまって靴磨きまでやってしまいましたが…。
法事の場では華やかな印象の鏡面仕上げの靴はふさわしくなく、落ち着いた足元が求められます。
それを知らずにビッカビカに輝かせた靴で出席してしまうと、他の方の視線が痛く感じることもあるかもしれません。
時・場所・場合といった、
- TPO
に沿った身だしなみをすることは、大人のマナーとして必要なことです。
革靴も例外ではありません。
礼節をわきまえたうえで鏡面仕上げを楽しめば、心も足元もスッキリ快適に過ごせること間違いなしですよ。
それでは、今回はこの辺で。
少しでも参考になれば幸いです。
ご覧いただき、ありがとうございました!
靴磨きを始めたい。けれど道具をそろえるのが面倒…。
そこでおすすめしたいのが靴磨きセット。1セット買うだけで必要な道具がまるっと揃います。道具選びの手間が不要。今すぐ靴磨き可能に。
大事な革靴を劣化させないために靴を磨いてコンディションを整えるのがおすすめです。