「定番」。
この響きには品質の良さや、そこからくる安心感といった、ある種のブランド的価値の意味合いも含まれていると思います。
多くの製品で定番と呼ばれるものがあるのと同じように、靴磨きに使うシューケア用品にも、いわゆる定番と言われるようなモノがあります。
靴磨きに使う道具の一つである「靴クリーム」は、革靴に油分を補給して革の乾燥を防ぐとともに、光沢を与えて見た目の良さも引き上げてくれるアイテムです。
人それぞれ、靴の仕上がりの好みや使い勝手などで定番品があると思います。
ただ、靴クリームの定番として、もっとも名前を挙げられる機会の多いのは、サフィールノワール(SAPHIR NOIR)の「クレム1925」でしょう。
靴磨きを嗜む多くの方に支持されるクレム1925。
本記事では、クレム1925の詳細と使い方を書いています。
クレム1925の特長
今回のテーマである「クレム1925」とはフランスはアベル(AVEL)社が手がけるシューケアブランドの「サフィールノワール」にラインナップされている商品です。

色は無色のニュートラル。
その他にもブラックやブラウンなど、全16色のカラーバリエーションがあります。
靴磨きの際に革靴に塗ることで、保革と光沢を与える「靴クリーム」に分類されます。
世の中に数多くの種類が存在する靴クリームですが、クレム1925は靴磨きをこよなく愛する方々から絶大な支持を集めています。
それはなぜか。
その理由はクレム1925の優れた特長によるものなのです。
- 保革力が高い
- 伸びが良く、使いやすい
- 靴磨き後の仕上がりが美しい
保革力が高い
靴クリームを使う目的は、革に油分や水分を補給して革の乾燥を防ぐことです。
革の乾燥が進むと、柔軟性がなくなり、革のひび割れや風合いの劣化を招きます。
それを防ぐために、靴クリームによる定期的な保革(栄養補給)が必要なのです。
そして、クレム1925は革への栄養補給効果がとても高い特長があります。
その秘密はクレム1925に含まれている成分にあります。
その成分とは…、
- ビーズワックス
- カルナバワックス
- シアバター
クレム1925には3種の特徴的な成分が含まれているのです。
ビーズワックス
ミツバチの巣から精製される天然素材のロウで、自然に優しいワックス。
粘着性が高いため、革靴の上にしっかりとどまり、美しいツヤを与えてくれます。
カルナバワックス
熱帯に生息する植物のカルナバ椰子が自身を乾燥から守るために表面に分泌するワックスのこと。
水分を閉じ込める力が高く、革表面にとどまることで、革から水分が蒸発することを防いでくれます。
シアバター
シアバターはシアの木から採れる種子から作られます。
シアバターは植物性の油脂で、保湿力がとても高く、人間の肌の保湿にも使われるほどです。
シアバターで与えた潤いを、カルナバワックスの膜で閉じ込め、ビーズワックスでツヤを作り上げる…。
ビーズワックス・カルナバワックス・シアバターの3種のコンビネーションによって、クレム1925の高い保革力とツヤが生み出されるというわけです。
伸びが良く、使いやすい
クレム1925は「油性」の靴クリームです。
靴クリームには乳化性と油性の2種類のクリームがあるのですが、それぞれ以下の特徴があります。
- 保湿に優れる
- ハンドリング性が良い
- 水が含まれている
- 革にツヤを与える効果が高い
- ハンドリング性は比較的悪い
- 水が含まれていない
一般に、靴クリームは乳化性のものは扱いやすく、油性のものは扱いにくいとされています。
実際に販売されている靴クリームもその傾向が強いです。
油性クリームに分類されるクレム1925は、油性クリームの特性からいって、伸びが悪いと思いきや、全くそんなことはありません。
クレム1925は油性クリームにも関わらず、とても伸びが良く、使いやすいクリームです。
その秘密は先ほどご紹介した成分の一つ、シアバターによるものです。
シアバターは常温でこそ固形ですが、人間の体温と同等の36℃でクリームのように滑らかになる性質を持ちます。
一般的な油性クリームでは滑らかさを感じることはなくても、クレム1925はシアバターが配合されていることで、油性クリームの中では比較的扱いやすく、馴染ませやすいクリームに仕上がっているのです。
靴磨き後の仕上がりが美しい
クレム1925を使って靴を磨くと、とても深いツヤが出て、美しい仕上がりになります。
これはクレム1925に含まれている、ビーズワックスがその効果を余すことなく発揮しているからです。
ビーズワックスは革靴を鏡面のように光らせることができる「鏡面磨き」に使われる靴用ワックスにも使われる場合もあり、そのツヤ出し効果は折り紙付き。
靴用ワックスを使わずとも、クレム1925を使うだけで、革靴にツヤを与えることが可能になります。

クレム1925を使った靴磨き
このように素晴らしい効果を持った靴クリームである「クレム1925」。
ここからはクレム1925を使った靴磨きをしていきます。
磨くのはこちら、スコッチグレイン(SCOTCH GRAIN)の「アシュランス」。

黒のストレートチップで、いわば革靴の王道ともいうべき形。
この革靴をクレム1925で磨く手法を手順を踏みながらご説明していきます。
- 革靴のホコリを馬毛ブラシで落とす
- 革靴の汚れを靴クリーナーで落とす
- 革靴にクレム1925を塗って保革する
- 革靴に塗ったクレム1925を豚毛ブラシで馴染ませる
- 革靴上の余分なクレム1925をクロスで拭き取る
- 革靴を山羊毛ブラシでブラッシングして状態を仕上げる
革靴のホコリを馬毛ブラシで落とす
まずは革靴のホコリ落としから。
馬毛ブラシを使って革靴に付着しているチリやホコリを落とします。

手首のスナップを利かせて、ホコリを払い落とすイメージでブラッシングします。
ホコリ落としは革靴を長く履くために、最も重要な作業です。

ホコリは革の油分を奪う大敵。
革靴の汚れを靴クリーナーで落とす
ホコリを落とした後は、靴クリーナーで革靴に付いた汚れを落とします。
革靴は日々履いていくうちに、だんだんと汚れていきますので、定期的な汚れ落としは必須。
靴クリーナーを含ませたクロスで革靴を拭き、汚れを落としていきます。
汚れ落とし用のクロスを指に巻き付けて、靴クリーナーを染み込ませます。

使用する靴クリーナーはブートブラックシルバーラインの「ツーフェイスローション」です。
水性汚れと油性汚れを落とせる2種の成分が含まれているので、これ一つで革靴の汚れを落とすことができます。
ツーフェイスローションを含ませたクロスで革靴を拭いていきます。

力はいりません。
ゴシゴシこすると革へのダメージが入りますので、撫でるように優しく拭くのがポイントです。
革靴にクレム1925を塗って保革する
革靴のホコリと汚れを落としたら、ここで登場。
クレム1925。
靴クリームであるクレム1925を革靴へ塗り、保革を行います。
指に直接クレム1925を付けて革へ塗り込んでも良いのですが、僕の場合、クリーム塗布用ブラシである、ペネトレイトブラシを使用します。

ペネトレイトブラシにクレム1925を少量取り、革靴へと塗り込んでいきます。
採取量は米粒1~2個程度で充分です。
- 塗る量が多すぎると革靴がべたつく原因となってしまいます。

ペネトレイトブラシを使うことで、クレム1925を満遍なく革靴へと塗ることができますし、指が汚れることも防げるからです。
革靴に塗ったクレム1925を豚毛ブラシで馴染ませる
クレム1925を革靴全体に行き渡らせた後は、豚毛ブラシでブラッシングします。
ペネトレイトブラシはブラシ面積が小さいため、革靴全体へ靴クリームを薄く均一に塗り広げるのは得意ではありません。
そのため、ある程度大きめのブラシを使って、靴クリームを塗り広げることを助けてあげるのです。
また、豚毛はコシが強い毛であるため、靴クリームを運ぶ力も強め。
靴クリームを薄く塗り広げるにはうってつけなのが豚毛ブラシというわけです。
全体を「シャッ、シャッ」とブラッシングしていきます。

革靴上の余分なクレム1925をクロスで拭き取る
豚毛でのブラッシングが終了したら、続いて、クロスによるクレム1925の拭き取り作業に移ります。
実は靴クリームというのは、革へと浸透する分の必要最低限の量さえあれば、十分なのです。
逆に、余分な靴クリームが革靴上に残ってしまうと、その靴クリームが酸化して変色して革の風合いをそこねてしまったり、革靴のベタつきの原因となります。
革靴にベタつきがあるとホコリを付着しやすくなってしまうので、そのホコリが革に必要な水分や油分を吸い取ってしまい、かえって革の乾燥を招いてしまいます。
そういったことを予防するために、革靴に余分な靴クリームを残さないようにする必要があるのです。
作業は簡単。
指にクロスを巻き付けて、革靴を乾拭きするだけ。

余分な靴クリームが残っているとクロスで拭いたときに引っかかる感触がありますが、余分な靴クリームが無くなってくると、クロスの滑りが良くなってきます。
革靴を山羊毛ブラシでブラッシングして状態を仕上げる
ここが最後の工程です。
山羊毛ブラシで革靴全体をブラッシングします。
ブラッシングによって靴に塗ったクレム1925をより均一にして、革靴にツヤを出すのです。
山羊毛ブラシは毛先が非常に細く、靴クリームの成分を均す効果があります。
先ほど使用した豚毛ブラシは「靴クリームを塗り広げる」のに対して、山羊毛ブラシは「塗り広げた靴クリームを均一に均す」というイメージです。
山羊毛ブラシを使う際は、ごく少量の水を付けると、よりツヤが出やすくなります。

作業としては山羊毛ブラシに水を1滴だけ付けて、そのブラシで革靴をブラッシングするというもの。
水を入れたハンドラップを山羊毛ブラシでプッシュして、水を付けてから…

山羊毛でブラッシング。

山羊毛でのブラッシングの仕方は馬毛ブラシのような払い落とすような動きでも、豚毛ブラシのような大きめのストロークで豪快に、というものでもありません。
クルクルと円を描くように、革靴に優しく毛先を触れさせるイメージで行いましょう。
山羊毛のブラッシングが終わったら、これにてクレム1925を使った靴磨きは終了。
仕上がりを見てみましょう。

革靴のアッパー(甲側)全体が輝いているのが分かります。
クレム1925の効果によるものです。
革靴の拡大図を。

控えめながらもしっかり主張する光沢があり、革靴本来の色の深みも引き立っている仕上がりになりました。
一般的な乳化性クリームとは異なり、油性クリームであるクレム1925は革靴に強いツヤを与えてくれるのが強みであり、魅力。
かといって、鏡面磨きとはまた違った革の風合いになる…。
保革と同時に、革靴に適度なツヤを与えてくれて、しかも使いやすい。
クレム1925の効果は絶大!革靴が輝く!
この記事では、クレム1925がどのような靴クリームであるのかのご紹介と、クレム1925を使った靴磨きを実践してみました。
乳化性クリームが多い靴クリームですが、油性クリームであるクレム1925はビーズワックスやカルナバワックスが配合されているため、革靴に強い光沢を与えてくれます。
それでいて、シアバターも含んでいるため、保革効果もバッチリ。
乳化性クリームにも引けを取らない栄養浸透性を有しています。
その卓越した効果と使いやすさで、多くの靴磨き愛好家たちに支持されているクレム1925。
靴クリームの「定番」とも言うべき素晴らしい製品です。
数多くの種類がある靴クリーム。
そんな方はまず、クレム1925をお試ししてはいかがでしょうか?
それでは、今回はこの辺で。
少しでもご参考になれば幸いです。
ご覧頂き、ありがとうございました!









革靴のお手入れに使う道具にはどんなものがあるの?
靴クリームやワックス、ブラシなど。
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